犬の避妊手術のメリットやデメリットは? 手術の流れや注意点なども解説

メスの犬を飼う場合、考えないといけないのが避妊手術です。避妊手術の必要性を感じているものの、犬の身体にメスを入れることに抵抗がある飼い主さんもいるかもしれません。

そこでこの記事では、犬の避妊手術のメリットやデメリット、手術の流れや注意点などを詳しくお伝えします。愛犬にとってよりよい選択ができるように、避妊手術に関する正しい知識を身に付けておきましょう。

犬の生理とは

犬は、生後6~10ヶ月頃に初回の生理(発情)を迎えます。初回発情の兆候は、主に陰部からの出血です。その後、約半年に1回のペースで生理が来るのが一般的です。

生理による犬の変化

犬は、発情期に妊娠しなくても妊娠期間と同じだけ約2ヶ月間、黄体ホルモン(妊娠を継続させるためのホルモン)が分泌され続けます。つまり、発情後期の2ヶ月間、犬は妊娠していなくても、妊娠期のようなホルモンバランスになるのです。

この時期は妊娠期のような体の変化もあり、通常は、乳腺が軽く腫れて透明な液が少し分泌されるくらいですが、犬によっては白い乳汁が分泌されるほど乳腺が発達する可能性もあります。

また、怒りやすくなる犬もいれば、つわりのような症状がある犬もいるでしょう。おもちゃやぬいぐるみを抱えてケージに持ち込み、巣作りのような行動をすることもあります。

その後は、時間の経過とともに自然と落ち着いてくるのが一般的です。約4ヶ月間の「無発情期」の後は、また次の生理が始まります。

以上のような変化が、避妊手術を行わない限り周期的に繰り返されるのです。

犬に避妊手術をするメリット・デメリット

犬の避妊手術には、メリットがある一方でデメリットもあります。飼い主さんは、メリットとデメリットの両方を把握した上で判断が必要です。

避妊手術のメリット

まずは、犬に避妊手術を受けさせるメリットをお伝えしていきます。

  • 病気を予防できる
  • 生理トラブルやストレスがなくなる
  • 望まない妊娠を防ぐ

病気を予防できる

避妊手術は、卵巣と子宮を摘出するということです。そのため、卵巣嚢腫(らんそうのうししゅ)や顆粒膜細胞腫瘍(かりゅうまくさいぼうしゅよう)など卵巣の病気、子宮粘液症や子宮蓄膿症など子宮の病気になることを防げます。

卵巣からはステロイドホルモンなどさまざまなホルモンが分泌されているため、避妊手術すれば、ホルモンに関連した病気、クッシング症候群や糖尿病などの予防にもなるでしょう。

また、乳腺炎や乳腺腫瘍についての予防効果も期待できます。乳腺腫瘍は中〜高齢の犬に発生する腫瘍で、良性と悪性の比率は50:50といわれています。初回の発情前に手術すれば、発症リスクを0.05%まで抑えることが可能です。

2.5歳を超えてしまうと悪性乳腺腫瘍の予防効果がなくなるので、なるべく早期に手術することが望ましいです。良性腫瘍に関しては、何歳で避妊手術を受けても予防効果が期待できます。

生理トラブルやストレスがなくなる

発情期は、犬のお世話が大変です。生理中の1~2週間は、陰部から出血があるため、汚れないようにマナーパンツなどをはかせなくてはいけません。食欲や元気がなくなる犬もいます。

また、生理中は、ドッグランや散歩中に雄犬を刺激する可能性も高く、犬同士のケンカなどのトラブルが発生しやすいです。散歩は、なるべくほかの犬にあわない時間帯や場所を選んだり、ドッグランに行かないなどの工夫も必要になります。

発情期は、性ホルモンによるストレスも感じやすく、精神的に不安定になることも少なくありません。不妊手術をすれば、精神的に安定して穏やかに過ごしやすくなるでしょう。

望まない妊娠を防ぐ

避妊手術をしていないと、予期せぬ交配をして妊娠するリスクもあります。ドッグランに連れて行ったときや散歩中に、去勢していない雄犬と交配してしまう可能性があるのです。

産まれた子犬の面倒を見られない場合、里親を探さなければいけません。里親も見つからない場合、保健所に連れていき殺処分されるケースも多数あります。殺処分を防ぐためにも、避妊手術で望まない妊娠を防ぐことが大切です。

避妊手術のデメリット

次に、避妊手術のデメリットについて解説していきます。

  • 手術のリスクがある
  • 肥満になりやすい
  • 尿失禁になる可能性もある

手術のリスクがある

避妊手術は、全身麻酔をして開腹手術を行います。犬によっては、麻酔薬に対する過剰反応を起こすこともあり、死亡する確率がゼロとはいえません

特に、短頭種の場合、麻酔後に気道閉塞を起こす可能性もあるので、手術後も注意が必要です。また、肥満の犬の場合、内臓に脂肪がついていることが多く、手術の際に血管を結ぶのが難しいため出血しやすくなります。

肥満になりやすい

避妊手術すると犬は性欲がなくなる一方で、食欲が増えやすいです。ホルモンの変化により基礎代謝は落ちるのにも関わらず、食べる量が増えるので肥満になる犬も少なくありません。

肥満になると関節疾患のリスクが高まるので、飼い主さんが体重管理をする必要があります。

尿失禁になる可能性もある

大型犬の場合、手術後数年経ってから尿失禁になることが稀にあります。これは、性ホルモンが減少して膀胱括約筋の収縮力が低下することが原因です。

しかし、尿失禁を起こす犬のほとんどが肥満のため、避妊手術が尿失禁の直接的原因ではないともいわれています。尿失禁は、肥満や運動不足など複数の要因が原因で発生しますが、避妊手術も要因の一つの可能性があると頭に入れておきましょう。

犬の避妊手術の流れ

ここでは、犬に避妊手術を受けさせるときの大まかな流れを確認していきましょう。

  • 手術約1週間前~
  • 手術当日
  • 手術後

手術約1週間前~

身体検査や血液検査、レントゲン検査などを行い手術可能な状態か確認します。検査結果によっては、手術を見送る可能性もあります

手術前日の24時以降(当日午前0時以降)は、食べ物を与えてはいけません。ただし、水分はOKです。万が一犬が何か食べてしまった場合、スタッフに伝えてください。

手術当日

犬を絶食の状態で、病院に連れていきます。全身麻酔をかけたときの嘔吐による窒息を防ぐためなので、絶食は必ず守ってください。

実際の避妊手術の流れは以下のとおりです。

  1. 鎮静・麻酔薬を投与し、気管チューブを挿入
  2. 吸入麻酔で全身麻酔をかける
  3. おなかの毛を剃って腹部を切開
  4. 卵巣のみもしくは卵巣と子宮を摘出
  5. 腹部の切開部を縫い合わせる

手術にかかる時間は、大体30分~1時間です。

近年、開腹せずに腹腔鏡(ふくくうきょう)で避妊手術を行うケースも増えています。お腹に小さな穴を3ヶ所ほど開けて手術するので、傷口も小さいです。しかし、通常の手術より高額で、時間も長くなるデメリットもあります。

手術後

開腹手術の場合、体の負担が大きいので、1泊入院になるケースが多いです。一方、腹腔鏡手術だと、日帰りが可能になることもあります。

食欲や呼吸状態、排尿の有無などを確認して問題なければ退院です。抜糸までの1~2週間は、愛犬が傷を舐めないように術後服やエリザベスカラーの装着が必須となります。

避妊手術後の過ごし方における注意点

避妊手術後は、愛犬はとても体力を消耗しています。飼い主さんは、主に以下の4点に注意する必要があります。

  • 安静にさせる
  • 愛犬が快適な環境にする
  • 異常があればすぐに動物病院に連絡
  • 食事や運動量を見直す

安静にさせる

手術後は、犬を安静にさせてください。ジャンプしたり走ったりすると、傷口が開いてしまう可能性があります。ジャンプや階段の上り下りも、体力を消耗するためNGです。長距離の散歩やドッグランもしばらくは控えてください。

また、抜糸後3日間は、シャンプーも控えましょう。愛犬が落ち着いて過ごせるように、飼い主さんは、手術後数日間は外出の予定を入れないのが理想です。

愛犬が快適な環境にする

愛犬が使う毛布や寝具は、術後の傷口からの感染を防ぐためにも清潔にしておくことが必須です。手術後、愛犬は体力面でも精神面でもダメージを受けています。

ハウスでのんびりと過ごせるように、お気に入りのおもちゃを近くにおいてあげるのもおすすめです。手術が終わって帰宅するとき愛犬が安心できるように、いつも使っているタオルなどを持っていくのもよいでしょう。

異常があればすぐに動物病院に連絡

手術後数日間は、1日に数回傷の状態を確認してください。万が一、以下のような症状があればすぐに動物病院に連絡しましょう。

  • 傷口の腫れや化膿
  • 縫合糸が切れている
  • 術部からの悪臭
  • 傷口が開いている
  • 痛みによる鳴き声
  • 歯茎が蒼白
  • 術後36時間以上の出血
  • 食欲不振・術後24時間経っても元気がない
  • 過剰なパンディング

食事や運動量を見直す

犬は避妊手術によってホルモンバランスが変化するので、肥満になりやすいです。肥満を防ぐには、適切な食事と運動が欠かせません。

体重が増えてきたら、フードのパッケージに記載された体重別の給与量の表をチェックしてみてください。現在の体重よりも1kg下の給与量(大型犬なら2kg下)に変えて、しばらく様子を見てみましょう。

ただし、減らしすぎると栄養不足になるため、低カロリーのフードに変えるのもおすすめです。また、犬が運動不足にならないように、散歩を欠かさないようにしてください。

犬の避妊手術に関するQ&A

最後に犬の避妊手術に関する以下の質問に回答していきます。

  • 卵巣と子宮両方を嫡出すべき?
  • 手術の費用はどのくらい?
  • 手術する時期はいつがよい?
  • 避妊手術後に犬の性質が変わることはない?

同じ疑問を持つ方は、ぜひ参考にしてください。

卵巣と子宮両方を摘出すべき?

犬の避妊手術には、卵巣のみを摘出する「卵巣摘出手術」と、卵巣と子宮を摘出する「卵巣子宮摘出術」の2種類があります。卵巣摘出手術の場合、妊娠の可能性が残ってしまうことがあります。

卵巣子宮摘出術は、妊娠の可能性はゼロになりますが、手術時間が長く犬の身体に負担がかかってしまうのは否めません。どちらがよいか、獣医師とよく相談しましょう。

手術の費用はどのくらい?

犬の去勢手術の費用は、3~8万程度が一般的です。手術を受ける動物病院や入院日数、犬の大きさによって変わるので事前に確認しておきましょう。

避妊手術はペット保険の補償対象外なので、基本的に全額負担です。ただし、他の病気が原因で避妊手術を受ける場合は、保険の対象となることもあります。

手術する時期はいつがよい?

犬が避妊手術を受けるのは、発情期を迎える生後6ヶ月頃がベストです。ただし、手術直前に発情が来る可能性もあります。発情中は出血しやすいため、手術を1ヶ月ほど延期する可能性が高いです。

不妊手術は、犬に体力のある若いうちが望ましいですが、手術に耐えられる体力がついてから行いましょう。また、臓器が小さすぎると手術のリスクが上がったり手術後に発育不良が起こる可能性もあります。

反対に高齢になってからは、脂肪が臓器に多くついていたり、内臓に問題があり麻酔のリスクが高まったりなど、手術が難しくなるので注意が必要です。

避妊手術後に犬の性格が変わることはない?

不妊手術をしても、犬の性格が変わることは基本的にありません。ただし、避妊手術前の発情期にストレスで噛むなどの行動を覚えてしまったら、その癖が続く可能性はあります。悪い癖がつく前に避妊手術した方がよいでしょう。

飼い主は犬の避妊手術について理解を深めておこう

愛犬に避妊手術を受けさせる場合、メリットやデメリットを十分に理解した上で、最適な時期を検討する必要があります。そして、手術後、愛犬は体力を消耗しているので、飼い主がしっかりとケアしてあげましょう。

少しでも様子がおかしいと思ったら、すぐに動物病院に連絡してください。快適な環境づくりや食事や運動量の見直しも行い、愛犬の健康管理・体調管理に努めましょう。

執筆:いぬのあのね編集部
イラスト:ヴァイクセルブラウン花咲季

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